漁業 須佐男命イカ一本釣り船団

  • 漁業
  • 先人

家田 充啓さん

会社名
漁業 須佐男命イカ一本釣り船団
魚と共に過ごしてきた人生

 愛知県出身で、昔から魚が好きで、幼少からたも網を持って近所の川によく遊びに行きました。学生時代は北海道や沖縄の西表島など、釣り竿を片手に全国各地を飛びまわり、その趣味は大人になった今でも続いています。また、熱帯魚ショップでアルバイトをし、魚類調査でパプアニューギニアへ行ったこともあります。卒業後は海外へ出て、ネイチャーガイド、釣りガイドなどを経験したのち帰国し、中央卸売市場へ就職し、輸入水産物を取り扱って統括職まで勤めていました。とにもかくにも魚が好きで、今に至っては、萩市の須佐という漁業集落で一本釣りの漁師になるべく、指導者のもと研修しています(現在は独立)。

 前の仕事が嫌いだったわけではありません。好きな魚にも囲まれていました。早朝から市場に出社し、仕入れから営業、部下の統括等、本当に大変でした。電話には1日40件から50件も電話が鳴ることもありました。それでも魚が好きだったので苦痛ではなかったのですが、部署が異動になって統括職に就いてからというもの、休日に釣りをしている時に仕事の電話が鳴ったり、次の日の仕事の事が頭をよぎり、本当は釣りを続けたいのに、早く帰らなければ、と釣りに集中することが出来なくなることが多くなりました。家に帰ると、いつの間にか仕事のことばかり考えている状態を妻にも指摘され、働き方について考えるようになりました。今、考えればあのときは、人間らしい働き方もできていませんでしたし、本来、仕事もうまい具合に手抜きすればいいのにとも思うのですが、自分はそういうタイプでもなかったため、次の選択肢を模索するようになりました。今は本当に人間らしい生活ができていて幸せを感じています。だって、朝の連続ドラマでも見ようかな…、という選択肢があるのですから(笑)。

4人の親方

 私は、個人で船を持ち、一本釣りを生業とする漁師を目指していましたので、萩市でいえば大島のような船団を組んで固定給を確保できるような網の漁師は選びませんでした。ただ、全国ではなかなか一本釣り漁師を勧めてくれる地域が少ないので困っていたのですが、山口県が、県の漁協と一緒になって開催した漁業関係者と漁業従事希望者とのマッチングフェアに参加し、今、働いている、須佐の一本釣り船団に出会いました。漁師の世界は、世襲優先で閉鎖的、ヨソモノは受け入れないというイメージを持っていましたが、支援も手厚く、本船団は温かく受け入れてくれました。夏に一度2泊3日の体験を経て、妻や親族に相談。夫婦揃って愛知生まれの愛知育ち。私にいたっては長男でもあるのですが、魚好きな私のことを皆が理解してくれていたので、心配される声はあれど、理不尽に止められることはなく、新たな挑戦を後押ししてくれました。

 研修期間が2年間設けてあり、その間はアルバイト料が支給されます。須佐はイカで有名な土地ですが、実際漁をするイカの種類や時期によっては、漁場も非常に近く、遠くても1時間程度で到着します。出荷についても、ただ獲るだけというやり方ではなく、地域で一丸となり、イカを活かしたまま出荷しブランド化する体制も整えられており、近年課題となっている漁価安への対応も早い段階からされています。

 不安な点といえば、やはり技術面です。独り立ちすると、船には自分一人。まずは生きて帰ることが優先となる世界です。その上で、イカを効率良く釣り上げる技術も必要です。研修期間は、通常1人の親方とマンツーマンが多いのですが、こちらでは親方が4人態勢で3カ月ごとに入れ替わります。最初は気づかなかったのですが、実際4人の親方は、日々変わる環境下で、それぞれの個性を磨かれており、使うしかけや、釣り方まで全くといってよいほど違います。見て盗むというレベルまでは至りませんが、目の前でそれを見て参考にできる。実はこれが大変恵まれていることと感じています。全国でもなかなか無いのではないでしょうか。

漁師としてのやりがい

 年間50日。趣味で毎週のように釣り船に乗ることはありましたが、実際、漁船に乗ることはありませんでした。大きなビルや有名店が立ち並ぶ環境が幸せという方には、縁遠いかもしれませんが、私は、イカがたくさん釣れたときなどが純粋にうれしい。釣れなかったときに、風のせいか?それとも潮のせいか?と終わりない悩みと向き合うときも楽しい。自然と寄り添い、人間らしい生活ができるということは、本当に幸せです。また、私が中間業者だった時は、ライバル社の影響もあり、価格訴求を重要視していました。今は漁業者という立場になり、自分が釣った新鮮なイカを目の前にして、「いいもの」に対して「適正な価格」を設定すべきと考えるようになりました。

 実際、日本の水産業界が衰退していくしかないという話を聞いてはいましたが、今は、それを体感しています。日本の消費者が初めてイカを食べるときに、それが、海外の工場で白く漂白され、本来イカが持つ甘みが無くなってしまったイカと、地元須佐の漁師のように、本当に一番いい状態で港の水槽まで届けようとしているイカの場合とで、大きく違います。実際、その後の消費者が持つイカのイメージに大きく影響します。漁師を目指す立場になった今、イカ自体の価値を、もっと高めていきたいと思うようになりました。時期によって獲れるイカが違う。そもそも、最初は身が透明で触感も全く違う。魚でも、例えばアジ。全国的に漁獲されていますが、鮮度はもちろん、獲れた場所、時期、漁獲方法、処理の仕方などによって大きく味は変わります。漁師という仕事の奥深さや、やりがいを感じています。
 獲るだけでなく、自分で売ることを考える。高く売れればいいではなく、どうしたら美味しく食べてもらえるかを考えることが出来るような漁師になりたいと思います。

趣味はいつまでも

 趣味を仕事にしたら辛くなるのでは、と言われるが、仕事であるイカ釣りと、違う釣りを趣味として、しっかり今も持ち続けています。今は本業が安定していないので、なかなか叶わないですが、いずれは、夏の時期は趣味である鮎釣りに多くの時間を割きたいと思っています。須佐は、萩市の中でも島根県との県境に近く、アユ釣りで有名な島根県のスポットにも比較的近いので、夏は鮎、それ以外はイカといったような生活も夢見ています。アユ釣りが大好きなんです(笑)。さらにイカ漁に慣れてきたら、技術的にも難しいイカ以外の魚を狙うことも視野に入れています。釣り人として色んな海を見てきたのですが、どの海が一番良かったかはよく分かりません。ただ、自分は魚が好きで、こうした環境下で魚に寄り添いながら生活できることが一番の幸せ。そういう意味で私の中では、ここが日本一の海と言えますね。


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